どぶろく

「『どぶろく』という言葉は聞いた事があるけど、どんなお酒なのか知らない」という人は多いのではないでしょうか。

古いイメージがある「どぶろく」ですが、実は美容・美肌効果も期待できるということで近年注目されている日本の伝統的なお酒なのです。

「どぶろく」とは、どんなものなのかを判りやすくご説明したいと思います。

 

どぶろくの歴史

どぶろく祭り

「どぶろく」の名前の由来は諸説ありますが、米で作る醪(もろみ)の混じった状態の濁酒のことを濁醪(だくらう)と呼んでいたのが訛って、今日のどぶろくになったと言われています。

日本では古来より、多くの地域で収穫したお米で「どぶろく」を作って神に供えることで、来期の豊穣を祈願していました。

この風習は今でも日本各地のどぶろく祭などによって残っています。

このように「どぶろく」は神事との結びつきの強いお酒と言えます。

 

「どぶろく」と「にごり酒」の違い

「どぶろく」と「にごり酒」はどこが違うのかあまりご存じない人も多いと思います。

「どぶろく」も「にごり酒」と同じように白く濁ったお酒なので、同じもののように思いますが、酒税法上の違いがあります。

「どぶろく」と「にごり酒」の違いを知る為に、まずは「清酒(日本酒)」とはどのようなものなのかを見てみましょう。

 

「清酒(日本酒)」の定義

清酒

「清酒」という言葉はみなさん一度は聞かれた事があると思います。

いわゆる「日本酒」です。

しかし、厳密にどのようなものを「清酒」と呼ぶのかを知っている人は少ないのではないでしょうか。

「清酒」は酒税法という法律で以下のように定義されています。

酒税法(その他の用語の定義)
七 清酒次に掲げる酒類でアルコール分が二十二度未満のものをいう。
イ. 米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの
ロ. 米、米こうじ、水及び清酒かすその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの(その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む。)の重量の百分の五十を超えないものに限る。)
ハ. 清酒に清酒かすを加えて、こしたもの

つまり、清酒とは「醗酵させてこしたもの」と定義されているのです。

この「濾す(こす)」という作業は「上槽(じょうそう)」と呼ばれています。

「醪(もろみ)」を「酒」と「酒粕」にわける作業です。

醪を酒袋に入れて、圧力をかけて搾ります。

上槽には、槽(ふね)という搾り機で搾る方法、ヤブタと呼ばれる自動圧搾機で搾る方法、醪が入った酒袋を吊るして滴り落ちる原酒を集める「袋吊り」という方法などがあります。

 

「にごり酒」の定義

にごり酒

清酒は、米、米麹、水を醗酵させて濾したものなので、一般的には透明です。

それでは「にごり酒」は清酒になるのでしょうか。

それは酒税法で定義されているように「醗酵させてこしたもの」かどうかによります。

「上槽」で目の粗い酒袋を使って醪(もろみ)を濾した場合、酒袋の目を通りぬけた醪(もろみ)で酒は白濁しています。

これが「にごり酒」です。

「にごり酒」は白濁していますが、濾しているので「清酒」になります。

つまり、お酒の色や透明度ではなく「濾しているか、濾していないか」で清酒か清酒ではないかを判断するのです。

 

「どぶろく」の定義

どぶろく

どぶろくとは、「米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、濾していないもの」です。

ですから酒税法上では清酒には分類されず、「雑酒」に分類されます。

酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律施行規則では、以下のように「どぶろく」の呼称は「濁酒(だくしゅ)」とされています。

酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律施行規則

(品目の例外表示)
第十一条の五  令第八条の三第四項 に規定する財務省令で定める酒類は、次の表の上欄に掲げる品目の酒類とし、同項 に規定する財務省令で定める呼称は、当該酒類のうち、同表の当該中欄に掲げるものにつき、同表の当該下欄に定める呼称とする。

上欄 中欄 下欄
清酒 法第八十六条の六第一項の規定により定められた酒類の表示の基準によつて国税庁長官が地理的表示として指定した日本酒の表示を使用することができるもの 日本酒
その他の醸造酒 米、米こうじ及び水を原料として発酵させたもので、こさないもの 濁酒

「にごり酒」は清酒になりますので1kℓ(キロリットル)当たりの酒税は120,000円になります。

「どぶろく」(濁酒)については、原則として「醸造酒類」の「その他の醸造酒」の税率が適用され、1kℓ(キロリットル)当たりの税率は「140,000 円」となります。

ただし、アルコール分 10 度未満で発泡性を有するものは、「その他の発泡性酒類」の税率が適用され、1kℓ当たりの税率は「80,000 円」となります。

 

どぶろく特区とは

酒税法では年間の醸造見込み量が最低6キロリットルと定められています。

そういった基準を緩和して、地域の活性化を目指す「構造改革特区」という制度があります。

構造改革特区の中には、年間の醸造見込み量が6キロリットルに満たなくても、特区内の農業者が自分で栽培したお米でつくったどぶろくを、自ら経営する民宿などで提供する場合には酒造りの免許を取得できる場合があります。

この指定された区域を「どぶろく特区」と言います。(『構造改革特区における製造免許の手引』参照)

日本各地のどぶろく特区の一覧は『どぶろく特区とは』のページに記載していますので、ご参照下さい。

 

「どぶろく」と「甘酒」の違い

甘酒

飲む点滴とも呼ばれる「甘酒」にはアルコールは含まれていません。(但し、酒粕からつくる甘酒は酒粕にアルコールが含まれていますので、微量のアルコールを含みます)

この後にご説明しますように、「酵母」が発酵してアルコールを作り出します。

米と米麹のみでつくる甘酒には糖を分解してアルコールをつくる酵母が含まれていません。

どぶろくは米と米麹+酵母で作ります。

ですから、単にアルコールを含んでいるかいなかだけではなく、酵母が入っているかいないかという違いもあります。

 

どぶろくの醸造

それでは、どぶろくはどのように作られるのかをみてみましょう。

 

どぶろくの原料

どぶろく作りでは、米と麹(こうじ)と酵母(こうぼ)を混ぜて醪(もろみ)をつくります。

お酒をつくる「醸造」には、米をぶどう糖に分解する「糖化」と、グルコースをアルコールに変化させる「発酵」の2つの工程があります。

 

米

どぶろく作りは米を蒸すところから始まります。

精米の全成分のうち、約77%が「でんぷん」でできています。

でんぷんは「ブドウ糖」が集まってできたものです。

この米の成分であるでんぷんを分解してブドウ糖にして、さらにそのブドウ糖をアルコールと二酸化炭素に変えていきます。

 

麹(こうじ)

麹菌

麹菌(こうじきん・きくきん)とは、多くの酵素を含んだ菌で、でんぷんをブドウ糖に分解する点に優れています。

酵素と言うのは「化学反応を触媒するタンパク質」です。

麹菌は「酵素の宝庫」とも言われています。

判りやすく言いますと、酵素とはある物質を別の物質にする働きをするタンパク質です。(酵素は生き物ではなく物質です)

例えば、麹菌によってつくられる「アミラーゼ」という酵素はでんぷんを「ブドウ糖」に分解します。

「プロテアーゼ」という酵素は、蛋白質を分解して「アミノ酸」を作ります。

他にも、脂肪分解酵素や繊維素分解酵素など、麹菌には多くの酵素がつくられています。

米麹(こめこうじ)とは、蒸した米に麹菌を繁殖させた「麹菌のかたまり」です。

国税庁の告示で以下のように定義されています。

国税庁告示第8号「清酒の製法品質表示基準を定める件

米こうじとは、白米にこうじ菌を繁殖させたもので、白米のでんぷんを糖化させることができるものをいい、特定名称の清酒は、こうじ米の使用割合(白米の重量に対するこうじ米の重量の割合をいう。以下同じ)が、15%以上のものに限るものとする。

 

酵母

酵母

酵母菌はイースト菌とも呼ばれるもので、糖分をアルコールと二酸化炭素に分解して、分裂・成長していきます。

これを「発酵」といいます。

米のでんぷんを「麹」がブドウ糖に分解して、そのブドウ糖を「酵母」がアルコールと二酸化炭素に分解するという流れになります。

酵母のはたらきによって、カプロン酸エチルと酢酸イソアミルといった香り成分も生成されます。

カプロン酸エチルはリンゴのような香り、酢酸イソアミルはバナナのような香りがします。

清酒酵母がこういったフルーティーな香りを生成することで吟醸香がうまれるのです。

酵母には清酒酵母の他にも、ビール酵母・ぶどう酒酵母・パン酵母など多くの種類があります。

 

酒母(しゅぼ)

酒母とは、蒸米と麹と水を混ぜたものに酵母を加えて培養したものです。

醪のもとになるもので、酛(もと)とも呼ばれます。

酒税法では以下のように定義されています。

酒税法 第三条二十四項 酒母

酵母で含糖質物を発酵させることができるもの及び酵母を培養したもので含糖質物を発酵させることができるもの並びにこれらにこうじを混和したもの(製薬用、製パン用、しようゆ製造用その他酒税の保全上支障がないものとして財務省令で定める用途に供せられるものを除く。)をいう。

 

醪(もろみ)

醪(もろみ)

醪とは、発酵中の液体のことを指します。

醪(もろみ)は固体の部分(酒粕)と液体の部分(原酒)があります。

この個体部分(酒粕)と液体部分(原酒)をわける作業をおこない、液体の原酒部分が日本酒になります。

酒税法では醪を以下のように定義しています。

酒税法 第三条二十五項  もろみ

酒類の原料となる物品に発酵させる手段を講じたもの(酒類の製造の用に供することができるものに限る。)で、こし又は蒸留する前のもの(こさない又は蒸留しない酒類に係るものについては、主発酵が終わる前のもの)をいう。

 

どぶろくの発酵方式

お酒をつくるには、米などをブドウ糖に分解する「糖化」と、ブドウ糖をアルコールに変化させる「発酵」の2つ行程があります。

さらに「発酵」には「単発酵」「単行複発酵」「並行複発酵」の3つの方式があります。

それでは、どぶろくはどのような発酵方式で作られるのかをみてみましょう。

 

単発酵

ワイン

単発酵とは、糖化をおこなわずにアルコール発酵のみをおこなう発酵方式です。

例えば、ブドウのようにブドウ糖を最初から多く含んでいるものを原料にする場合、糖化する必要はありませんので、アルコール発酵のみをおこないます。

単発酵の代表的な例としてはワイン醸造があります。

 

単行複発酵

ビール

単行複発酵とは、糖化をおこなってから発酵をおこなう発酵方式です。

例えば、麦のでんぷんを糖化酵素で分解して麦汁を作り(糖化)、その麦汁を用いてアルコール発酵(発酵)させます。

単行複発酵の代表的な例としてはビール醸造があります。

 

並行複発酵

日本酒

並行複発酵とは、糖化とアルコール発酵を同時並行的に行わせる発酵方式です。

並行複発酵では、徐々に糖化が進み、糖化で生じたブドウ糖も徐々に発酵によって消費されます。

並行複発酵の代表的な例としては清酒醸造があります。

どぶろくもこの並行複発酵でつくられます。

 

どぶろくの美容と健康効果

どぶろくの原料である米麹には、先程ご説明しましたように、多くの酵素を含んでいます。

その酵素のお陰で、どぶろくにはさまざまな栄養素が含まれています。

 

必須アミノ酸

アミノ酸

どぶろくには、人の体内では生成できない必須アミノ酸(リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、バリン、スレオニン(トレオニン)、トリプトファン、ヒスチジン)を全て含んでいます。

特に、必須アミノ酸の中でも、筋肉を生成するBCAA(分岐鎖アミノ酸:バリン、ロイシン、イソロイシン)が含まれている点が注目されます。

詳しくは『どぶろくの美容効果 必須アミノ酸』でご説明していますので、ご参照下さい。

 

ビタミンB群

どぶろくにはビタミンB1、B2、B6、葉酸、パントテン酸、ビオチン、ナイアシンなどが含まれています。

 

オリゴ糖

オリゴ糖

麹菌はアミラーゼという酵素を作ります。

このアミラーゼは、米のでんぷんを分解する過程でオリゴ糖を作ります。

オリゴ糖は腸内のビフィズス菌などの善玉菌の餌になるので、腸内の善玉菌が増えて、腸内環境がよくなることも期待できます。

 

コウジ酸

どぶろくはコウジ酸という物質を含んでいます。

コウジ酸とは、文字通り麹菌から生成される物質です。

麹を扱う酒蔵の杜氏さんの手が白くてすべすべという点に着目して、コウジ酸の美白効果の研究がすすめられたとも言われています。

このコウジ酸は1988年に「メラニン合成酵素であるチロシナーゼの活性を抑制し、メラニンの生成を抑える作用を有する美白有効成分」として認可されました。

このコウジ酸を含むことが、どぶろくの美容美白効果が期待できる根拠の一つになっています。

詳しくは『どぶろくの美容効果 コウジ酸』でご説明していますので、ご参照下さい。

 

 まとめ

まとめ

いかがでしたでしょうか。

「なんとなく聞いた事があるけれど良く判らないお酒」と思われていた人には、どぶろくがどんなお酒なのかがご理解いただけたのではないかと思います。

どぶろくは日本の伝統のお酒であり、適量であれば美容と健康にも効果が期待できます。

ただ、覚えておいて頂きたいのは、どぶろくは酒税法に基く酒類だということです。

ですからどぶろくを作る場合、許可申請が必要です。

許可なく酒類を製造する製造するだけでも5年以下の懲役または50万円以下の罰金と酒税法で規定されていますので、決して無許可で醸造することはしないようにして下さい。